2005年11月29日

悲しい恋のはじまり

彼の名はシュテファンといった。
彼はドイツの会社に勤めるドイツ人。日本支社の駐在員として東京にきて住んでいた。
そのころ仲よくしていた別のドイツ人の友人に、たまたまドイツ大使館でおこなっているホームパーティーに連れて行ってもらったときのことだ。

そこは田園調布。大使館に勤めるご家族の家で、とっても大きい。
エントランスも大きく、中庭には石でできたテーブルや椅子があり、BBQもできるようになっている。なんというか、庶民のわたしが見てきたのとは別世界。
そんななかで、何十人もいるドイツ人のなか、遠くから見て目が釘付けになってしまったひとりの男性がいた。それが、シュテファンだった。
とても背が高く少年のような瞳を持った人。大きな目が輝いていて、優しさが顔に表れている。人がとても良さそう。
顔立ちが良い、顔自体が整っていて美形というよりは、彼の人となりが表れていて素敵、素直で優しい感じ。
とにかく“素敵な人だな”という印象だった。

そのパーティーのときは話すきっかけもなく、あいさつを交わした程度。しかもそのときわたしにはつき合っている男性がいたし、自分から近寄って話しかけることもなかった。しかし、彼のことは見ただけ、雰囲気を感じただけで、何日もそのほわっとした空気の中にいるようだった。
日本にいるドイツ人はけっこう横のつながりがあるようで、こういう大使館関係のパーティはしょっちゅうやっているよう。わたしの連れのドイツ人も、シュテファンとは知り合いのようだったし、またなにかの機会で会えればいいな、とは思っていた。

そうしているうちに、仲のよいドイツ人グループから、「伊豆に旅行に行くんだけど行かない?」という誘いがきた。1泊2日の小さい旅行。いいよ、よふたつ返事で気軽に参加。踊り子号に乗るために待ち合わせした新宿駅のホームに行って、びっくりした。そこに、いたのだ、シュテファンが。

合計6人の小さな旅行。4人のドイツ人男に、その中のひとりのガールフレンドのスペイン人がひとり。それに、わたし。
節約が大好きな人たちだったので、安く旅行をあげるため、民宿に泊まった。大きな一軒家の2階にある大きな一部屋でみんなで雑魚寝をした。海で泳いだり海辺を散歩したり、寿司を食べに行ったりしてわいわいと過ごした。

旅行というただでさえ楽しい出来事に、さらに気になっていた男性がきてるのでわたしの気持ちは弾んだ。
初日に民宿について、さぁこれから海に行こうと、わたしは洗面室に着替えに行った。
すると、誰かが先にそこにいて腰をかがめて顔を洗っていた。
その人が顔をあげた瞬間、おでこにかかる髪が上にあがり、鏡にうつった大きな目が見えた。
あまりにびっくりして誰なのかなにが起こったのか一瞬わからなかった。
でも、その澄んだ大きな目を間近でみたとき、それが、完全にシュテファンに恋に落ちた瞬間だったのだと思う。

2日間いっしょにいて、彼が、常に腰が低く周りの人に合わせるタイプなことや、表面的に意志の強さや鋭さはあまり見られないけれど、とても自然にそこに居て、でも存在感がちゃんとある人だということに、とても好感を持った。

そのドイツ人たちは、まだ日本に駐在で来たばかりで、わたしたちの共通語は英語だった。でもみな日本好きだし、日本語のレッスンをとっている。
旅行の2日目、ビーチで熱い太陽に照らされながら、「日本語をはやく上達するには英語のできない日本人のガールフレンドをつくればいい」など、冗談ぽくみなで話していた。
シュテファンはすごくシャイで、なぜかみんなに「つくれよ、つくれよ」と言われて照れていた。でも彼の顔を見るとまんざらではなさそう。
わたしがそのガールフレンドになりたい、と顔はみなに合わせて笑いながらも思っていた。

しかし、彼は、みんなで話していても、わたしとすこし話しても、
深く入りこまずにするっと何処かへいくような、男女問わずみんなに同じ重さで接している感じがする。

それは、ある種の人たちにある特有のサイン。
うすうす感じてはいたが、彼にはドイツに残してきている彼女がいたのだ。

それを知ったときには、ときすでに遅く、わたしは彼に完全に恋をしていた。
続く
posted by njehan at 08:40| 悲しい恋 〜東京 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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