2005年12月23日

三度目のアムステルダム

「ここに泊まってるの?」
ホテルの階段を登ろうとすると、階下から大きな声が聞こえた。
螺旋階段のおどり場で、振りかえってみた。フロントの前に、3人の男がいてこちらを見ている。
どうやらあの大きな声の主は刈りあげた髪に大きな目の男の子みたい。まっすぐにわたしを見ている。
「ひとりで泊まってるの?」
「うん、今着いたばかり」わたしはどきまぎして答えた。
刈りあげた髪の男の子は笑いながらまた大きな声を出した。
「俺たちも。今からディナー食べに行くけどいっしょに行かない?」
わたしは考えた。今アムステルダムに着いたばかりだし、荷物もほどきたいし、すこしひとりでゆっくりしたい。
「うーん、ちょっとゆっくりしたいから」
そう言うと、
「どれくらい?俺たちそこらへん散歩してくるから、ちょっとしたらいっしょに食べに行こうよ」
それが、マイケルとの出会いだった。わたしにとって、3度目のアムステルダム。ここに来る旅行者は、いつも気軽。

どんな人たちなのか知らないのですこし躊躇する。
それでも、ひとり旅では話す相手はどうせいない。映画「ビーチ」を思い出す。なんだっけ、「異国での誘いは断ってはいけない」だっけ?ちょっと怖いけど、やってみなければわからない、それが、旅の掟。
1時間後には、その男たち3人と、わたしはイタリアンレストランに座っていた。
続く
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3人の男たち

これは前回の「三度目のアムステルダム」の続きです。


イタリアンレストランで、刈りあげた髪の男の子、マイケルはずっとわたしを見て話しかけていた。

のっぽのひょろ長い男の子の名前は忘れた、彼はマイケルの従弟だといっていた。そしてもうひとりのダンディーで目のたれた、売れない俳優にでもいそうな二枚目、それがマイケルのお兄さん、マイケルは3人の中でいちばん背が小さくて、目が鋭くて豹みたい。
レストランに行く途中、マイケルはしゃべりっぱなし。
「俺たち、アムスは初めてなんだ。今日はこれを買っちゃったよ!」うれしそうにNIKEのシューズを見せる。
彼らはイスラエルから来た。マイケルは今母国を離れ、マイアミでビジネスをやっていると話す。
レストランで席につくと、突然、マイケルは言った。
「You’re the most beautiful woman in the world. Do you marry me?」
え?と思った。お世辞にもほどがある。あり得ない。わたしは恥ずかしくなって他のふたりの顔を見た。
するとふたりは、にこにこして、マイケルを見やり、わたしを見て、にこにこして頷く。

ちょっとおかしいよ、これ!わたしは思った。こんな言葉を会ってすぐの相手に言えるなんてどうかしてる。
「Yes or No?」マイケルはにこにこ顔で聞いてきた。
「Nonononono!! I cannot believe that!」わたしは叫んだ。

わたし以外の3人は、くすくすと笑い、わたしたちはマッシュルームのピザをオーダーした。

ピザがきて、うまく切れないでいると、たれ目の兄は「世界一うまいピザの切り方を見せようか」そう言って、わたしのピザをとり、ナイフでくるくるとあっという間に切り分けてくれた。その間、ものの5秒。こいつら、ただ者じゃないかもしれない。

食事が終わると、4人で河の多いアムステルダムの黄色い灯のほとりを散歩しながらわたしたちはホテルに帰った。
続く
posted by njehan at 18:24| 旅と新たな出会いII 〜ヨーロッパ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月24日

気持ちが動かされる

これは前回の「3人の男たち」の続きです。


いろんなことに疲れ、毎日遅くまで寝ているわたしに、マイケルはドアをノックし続けた。
朝8時にホテルの部屋の電話が鳴る。誰?無視しているとこんどは部屋のドアがドンドン叩かれる音がする。
休んでいたわたしの、こころのドアをマイケルはノックし続けた。まるで、わたしの状態や気持ちを無視するかのように。
ただの旅行者のよしみ、ただのナンパ、そう信じて疑わなかったわたしのなかに、だんだんずかずかとマイケルは入りこんできていた。
「You like me?」彼はいつも聞いた。わたしはいつも答えをにごした。
「Yes or No?」彼はいつもはっきりした答えを求めた。「It takes time」時間がかかるよ、わたしはいつも答えた。

「3日でいい。俺といっしょにイスラエルに来ないか。3日で、きみが生涯忘れられないものを見せてあげる。約束するよ。それで、どうするか決めて」
そういわれるたびにわたしは考えた。日本で今残してきている仕事、わたしたちはただ旅先でであっただけの、なんのしがらみもない関係。それを完全に信じて、なにもかも捨ててついていくことはできない。

いろいろなことに悩んでいたわたしの、もっとずっと先を、この年下の男の子は歩いているようだった。
彼の言葉にはいつも迷いがない。「Go straight whatever you want. If you die tomorrow?」ただまっすぐに行けばいい。自分の思うとおりに。だってもし明日死んだら?

いつも明るい彼らのなかに、わたしの知らない世界がある気がした。壁に詰まってばかり、規則や常識に知らぬ間にとらわれているわたしよりも、もっと自由で、大きな世界が。

わたしの気持ちは、知らない間にだんだんと動いていった。

何日目だったろうか。マイケルと兄と従弟と4人で食事をしていた。マイケルの兄はわたしに聞いた。
「きみはどんなタイプの男が好き?やさしい人?話がうまい人?おもしろい人?」
それまでのわたしだったら、“やさしい人”と迷わず答えていたと思う。でもそのとき横にいるマイケルのことを思った。マイケルはやさしいタイプじゃない。ホテルの部屋でふたりでいるときは甘い顔をするが、いったん外に出るといつも怖い顔をしている。わたしを見て話していても、常に周りを気にし、危険がないかどうか確認している豹みたい。
わたしは、「男らしい人」と答えた。そして、そう答えた自分に驚いた。
その夜、ダンスクラブへ繰り出すという兄と従弟を横に、マイケルは、「きみはどうする?」と目で聞いてきた。わたしはホテルに帰る、そう言うと、じゃあ俺も帰る、マイケルはそう言ってタクシーを停めた。
タクシーの後部座席に座った。わたしは横に座るマイケルを見た。彼は無邪気そうににっと笑う。外にいるといつも周りを気にするマイケル。タクシー運転手を気にするマイケルをぐっと引き寄せて、「キスして」と言った。
続く
posted by njehan at 20:24| 旅と新たな出会いII 〜ヨーロッパ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月25日

この兄弟とわたしとの関係

これは前回の「気持ちが動かされる」の続きです。


イスラエルから来た3人といっしょにいるのがだんだん心地よくなってきていたわたしは、この次に行こうと思っていたロンドンへの日程をのばした。

マイケルたちと4人でアムステルダムの小川をくだる観光船を乗りに行ったときのこと。ときは夕暮れにさしかかろうとしていた。天気がよく、水面に光る赤い太陽がまぶしい。
みなで顔を見合わせて、この街の美しさに舌鼓を打った。
マイケルの兄がわたしに笑いかけながら言った。「今夜、僕が欲しい?」
びっくりした。マイケルの顔を見た。彼の顔にはなにもかかれていなかった。
わたしはまだマイケルと寝たことはなかったけれど、マイケルははじめからわたしをくどき通していたし、このなかでは暗黙の了解でマイケル&わたし、という図式ができているはずだった。
「いやいや、だって」と兄の顔を見て、マイケルのほうを見やると、兄はああ、というように小さくうなずいて、「マイケルが好き?」と聞いた。
「いやいや、わからないけど」返事をにごすと、兄は、
「いいじゃない?マイケルと、それであとで僕と」そう言って笑った。
わたしは信じられなかった。そういうのってなんていうの?兄弟とするって?近親相姦でもないし、そんな言葉あるの?
わたしの頭は常識でカチコチだった。
でも、彼らのそういう自由なところが、ラテンともいうか、自分の欲求にまっすぐな気がしてわたしにはびっくりさせられるのだった。

マイケルたち3人が、旅行を終え、イスラエルに帰る日が近くなった。わたしも、はじめは4日だけの滞在の予定だったのに1週間になろうとしていた。

マイケルに聞かれる。次はどこに行くの? ロンドンに行こうと思うの、そう言うと、
いいよいいよ、きみにとっていいことだよ。ロンドンに行ったら、あとでイスラエルにおいで。
わたしはまだ迷っていた。あまりにも想像を超えた発想をしてくるこの人たちをこころから信用することができるわけではない。でも、いっしょにいてこんなに心地よい彼らと別れてしまう選択を自分がするというのも不思議な感じがしてきていた。
そう、最後の夜を、彼らと迎えるまでは。
続く
posted by njehan at 10:20| 旅と新たな出会いII 〜ヨーロッパ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月26日

終わりの夜、奇妙な彼

これは前回の「この兄弟とわたしとの関係」の続きです。



マイケルたちが旅を終える日が明日となった。
わたしは、昼間、アムステルダム中央駅に出向き、ロンドン行きの列車のチケットをとった。
マイケルたちが帰る日。わたしもロンドンに出発する。それで、いいんだ。

最後の夜は、土曜だった。アムステルダムで一番大きいダンスクラブでパーティーがある。わたしたち4人は行くことにした。
夜になると、マイケルはいつものように、ドンドンとわたしの部屋のドアをノックした。
出ると、彼は得意げに手に持った2つのコップを差し出した。
「はい、これ」
その中には、黒いジュースのような液体が入っていた。
「今日はパーティーだからね。これ飲んでみなよ。俺、もう2杯も飲んできちゃった」
わたしの横で3杯目だというのを飲むマイケルを見て、これがおそらくなんだかは想像がついたがわたしも飲んだ。

用意してみなでクラブに行く。大勢の人が踊る、素肌をむき出しにした女の子がたくさん。おそらくオランダ人だろうが、旅行者も混じっているだろう。上半身裸体になった男もたくさんいる。わたしは少し怖くなった。
そんな混雑のなか、マイケルは、すぐにどこかに見えなくなる。わたしはマイケルの兄と離れないようにした。
途中から、マイケルがすこし変だな、と感じた。彼の目はいつもより余計険しくなり、いちどダンスをはじめると足が止まらないよう。ずっと踊り続ける。険しい表情の彼は、クラブの中ではわたしにもやさしくなかった。
でも、最後の夜。きっとこれが。その押しよせる現実が、わたしにマイケルの近くにいたいという気持ちを湧きたたせた。
怖い顔で踊るマイケルにわたしはもう一度言った。「キスして」
周りにたくさん人がいるのを気にしながら、彼はわたしの頬にキスをした。

真夜中をすぎ、明け方になった。わたしたちは歩いてホテルに戻った。
マイケルは、兄や従弟と同じ部屋に帰らず、いっしょにわたしの部屋に来た。
「ゴム、持ってる?」わたしは聞いた。

「絶対なかで出さないでよ」
そう念を押し、マイケルとわたしは交わった。彼のセックスは、彼をあらわすように男らしい、ずんずんとただ突くセックス。なんて男の子っぽい、あんまり気持ちよくないけど、その勢いにただ突かれる。
と、彼は知らぬうちにゴムを外しているような感じがした。ちょっと!!とわたしが叫ぶうちに彼は中で絶頂をむかえた。
怒るわたしを尻目にうれしそうに笑うマイケル。この子、あの黒い液体を3杯も飲んだせいで頭がおかしくなってるんだわ、わたしは思った。

あたりは明るくなってきていた。別れなければならない時間がせまってきていた。
でも、マイケルを許してしまったわたしの体は、離れたくないと言っているようだった。
続く
posted by njehan at 00:51| 旅と新たな出会いII 〜ヨーロッパ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月27日

嵐の過ぎ去ったあと

これは前回の「終わりの夜、奇妙な彼」の続きです。



マイケルたちの泊まる部屋にはじめて入った。男3人らしく、乱雑なようす。床にはたくさんのごみが落ちていて、脱ぎ捨てられた服があちらこちらに。

わたしとマイケルが部屋に入ると、ほかのふたりはすでに寝息を立てて寝ていた。
3つあるベッドのひとつで、わたしとマイケルは横になる。
朝の光が差しこんでいた。あと、何時間で彼らの飛行機の時間。わたしはまだ迷っていた。今ならまだ、間に合う。

「光があたって、きみの顔が、ブラック&ホワイトに見える。もっときれいに見える」
彼は愛しそうにわたしを見て微笑んだ。
わたしたちは今まで何人と寝たか話した。彼は言った。「300人、500人かな?」驚いて彼を見ると、「嘘だよ。ふたり。きみと、もうひとり」彼はいたずらっぽく笑った。
そして、「俺さ、HIVポジティブなんだぜ」マイケルは突然言った。わたしは、指にはさんでいた吸いかけのタバコを思わず彼の腕に押しつけた。
マイケルは飛びはねた。「なにすんだよ!」彼は怒ったようだった。
「HIVなんて嘘だよ!そんなの」
彼が続ける悪い冗談が信じられなかった。今だけ?今、変なだけ?
マイケルはその後も怒っている。いさかいで目を覚ました兄が、10時にはここを出るから、きみも用意してね、と教えてくれた。

10時になった。チェックアウトの時間。これで、マイケルたちはイスラエルに帰り、わたしは別の道にすすむ。

晴れた日だった。わたしたちは、ホテルの前のトラムの走る大通りで、別れのあいさつをした。マイケルの兄と、従弟とハグする。ありがとう、楽しかったね。兄が言う、マイケルとハグしろよ。マイケルはそっぽを向いている。まだ怒っているみたい。わからなかったけど、こちらを見ない彼の顔を見ているとなにもできなかった。そのままトラムに乗っていく彼らを見送った。マイケルは振り返らなかった。

わたしはしばらくぼうっとし、動き出せるようになるまでそこに立っていた。
嵐が過ぎ去ったあとのような、穏やかな気持ちだった。
それとともに、突然世界から切りはなされたように、ひとりぼっちになった気がした。
続く
posted by njehan at 02:42| 旅と新たな出会いII 〜ヨーロッパ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月28日

自分を覆っていた殻

これは前回の「嵐の過ぎ去ったあと」の続きです。



ロンドンの、ハイドパークに座っていた。大きい池に面したカフェで、ひとりコーヒーを飲む。

アムステルダムからロンドンに向かうインターシティ-高速列車-のなか、ロンドンに着いてから、わたしはひとりっきりで、でも、まだマイケルが横にいる気がした。
朝、目覚めると、ドアはノックされない、彼がいないのを、不思議に思った。

彼の言った言葉が次々とよみがえる。
「どうして用意にそんなに時間かかるの?きみはきれいだって言ったじゃない」

俺が好き?と聞かれ、わからないというわたしを、「俺を信じてない」と受け取る彼。

「知ってる?インスピレーションって。はじめてきみを見たときに俺は感じたんだ。イスラエルにいっしょに行って、その後マイアミに行って結婚しよう。仕事?マイアミで、今のきみの給料の2倍を俺は払えるよ」

どんなに冷たくしても、彼はわたしのドアをノックし続けた。毎日、毎夜。

迷っていたわたしに、彼が突きつけた言葉、「ただまっすぐに行けばいい。自分の思うとおりに」
それらの言葉は、わたしを励まし、まっすぐにこころに響くものだった。

欲望にまっすぐで、ただ今を、生を、生きている。それがゆえに人を傷つけることもあるであろう生き方かもしれない。しかし、それも、わたしにはできないことだった。

わたしは知っていた。男女の気持ちが通じ合うのは一瞬で、そこでコネクトされなかったふたりは永遠に道をすれちがって生きてゆく。その一瞬を、わたしはつかまなかった。いろいろな壁、ほんとうの自分を覆って見えなくする殻が、わたしを押しとめた。

わたしはロンドンで、なにかする気になれず、本屋でイスラエルのガイドブックを見たり、ひとりで歩きまわった。なにを見ても聞いても、マイケルのことを思い出した。

彼らと別れる日、聞けなかったマイケルの連絡先。その代わり、彼の従弟に書いてもらった電話番号があった。今じゃなきゃだめだ。マイケルも待ってる、きっと。今、じゃなきゃ。

イスラエルの国番号を調べ、なんとか電話した。
つながった。
年配の女性の声がし、従弟の名を告げると、そんな人はいないと言われた。
番号は、嘘だった。                            
続く
posted by njehan at 20:15| 旅と新たな出会いII 〜ヨーロッパ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月30日

憎しみが生まれるとき

これは前回の「自分を覆っていた殻」の続きです。



マイケルの従弟がわたしにくれた電話番号、つながらず、そんな人はいない、と言われた。
わたしはロンドンのイスラエル大使館に行った。電話の相手は、もしかしたら言葉が通じなかったのかもしれない。もしかしたらわたしは市外局番などまちがえているのかもしれない。
大使館の、イスラエル人に頼んだ。電話をしてくれるよう。
大使館員は、母国語で電話をしてくれた。やはり、電話は誤番号だった。

どうしたらいいか途方に暮れるとともに、わたしのなかにはマイケルを憎む気持ちが生まれた。嘘だった?全部? 許せない。なんとかして探したい、その強くなる気持ちは、もしかしたらただの意地だったのかもしれない。

わたしは、ヒールのついたブーツを脱ぎ捨て、マイケルが履いていたようなNIKEのシューズを買った。

わたしたちが泊まっていたアムステルダムのホテルに電話した。そこのスタッフは、何度かわたしにアプローチをかけてきた人。いつもやんわりと断っていた。3人のイスラエル人の連絡先を教えてくれないか、と聞くと、すぐに、わからない、彼らはツアーできたから、と言われた。嘘っぽい気がしたが、それ以上は聞けない。

どうしたら探し出せる?

ロンドンで泊まっていたホテル。わたしはフロントの男性となかよくなり、この話をした。彼はモロッコ人で、敬虔なイスラム教徒だった。なにか、助けがほしかった。
「あれはレイプだったのかもしれない」彼に話しながら、わたしは思った。
「でもきみは合意したんだろう?」
「そうだけど」
彼は首を傾げた。
「本当に彼らがわたしを騙していたとしたら許せない。だってもし妊娠してたらどうするの?」止められればさらに怒りの気持ちが強くなった。
彼はやれやれ、というように頭を振った。

わたしは警察に行くことにした。もうそれしか方法はない。

ロンドンの小さい警察派出所に行き、ことのいきさつを話した。「レイプだ」と言った。
起こった場所はアムステルダム、他の国。彼らは、イギリスの警察ではなく、国際刑事警察機構 -インターポール-の管轄になると話した。時間がかかる。
彼らはわたしを、はれものに触るように扱い、わたしはロンドンからウィンブルドンの検査場所まで車で運ばれた。
続く
posted by njehan at 06:56| 旅と新たな出会いII 〜ヨーロッパ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月01日

彼らのルーツを探しに

これは前回の「憎しみが生まれるとき」の続きです。



ロンドン警察がわたしを連れていった場所は、ふつうのアパートの一室だった。

彼らはわたしの血を採り、HIVの検査や、体内に残存するかもしれない精液を調べた。
人物を特定するため、指紋や体液が残っていないか、マイケルと過ごした夜に着ていた衣服などを、大きなビニール袋に入れて持っていった。
その後も何度も取り調べのようなものがおこなわれた。わたしは呼ばれた時間に警察に出頭し、また事情聴取のため、わたしのホテルにも何度か警官がやってきた。
この手順はとても遅く、わたしはうんざりしてきた。
そして、わたしの知りたいことは一向に得られない。マイケルは、どこ?

ロンドンではよくインターネットカフェに行った。そこで知り合ったエジプト人−彼は自分をアリ・ババと名乗った−はわたしよりずっと年上でいろいろな話をわたしにした。
エジプトはアフリカ大陸の最北端にあり、中近東のイスラエルのすぐ横にある国。それだけでもマイケルをつうじて親近感を覚える。わたしはマイケルとのことをアリ・ババに話した。彼は言った。
「警察に行ったのは正しい。もしきみがそれをしなかったら、彼はまた同じことをほかの女にするかもしれない。結果は、きみが判断するのではなく、警察が決めることだ」

しかし、アリはこんなエピソードも話した。昔、警察に電話してきた女性がいた。レイプされたと言い、男は監獄に入れられた。その後、女は修道女になった。何年かのち、女は警察にきた。「ごめんなさい、レイプされたというのは嘘でした。ただ、彼が好きだったんです」
男が他の女と寝たのを許せず、嘘をついた。そして真実を話し、男を監獄から出した。

わたしは思った。わからないけど、わたしはマイケルを監獄に入れたいわけじゃない。
ただ、探し出したい、そして、時間を取り戻したかっただけだ。

わたしは、警察にそれ以上行くのをやめた。
その代わりに、以前旅行したときに知り合ったイスラエル人の女性にメールをして連絡をとった。

彼女は、わたしがイスラエルに行きたい、というと指揮をとってくれた。うちに泊まりなよ、空港からはこう来て、と。

そのときは、もうマイケルを探すためではなかったと思う。自力じゃ探せないにきまってる。わたしは、マイケルの名字も知らなかった。
ただ、彼らの生まれ育ったところを、自分の目で見てみたい、どんなところなのか。そういう気持ちが強かったのだと思う。
マイケルがそんなにも見せたがっていたその国を。
続く
posted by njehan at 02:10| 旅と新たな出会いII 〜ヨーロッパ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月02日

もし明日死んだら

これは前回の「彼らのルーツを探しに」の続きです。



イスラエルの、トラヴィーブ空港に着く。
拳銃を腰につけたガードマンが多くいる。そして、それまで一度もあけられたことのないスーツケースを開けるように言われる。

友人宅に着き、眠る。夢をみた。浅い眠り、途中でなんども目が覚める。
イスラエルにいる、それがわたしを夢見心地にさせ、またエキサイティングにもさせた。なんどもマイケルがでてきた。いやずっと彼の夢を見ていたといっても過言ではないだろう。それくらい、彼のイメージはまだ強烈にわたしの中に残っている。

彼はこの国のなにを見せたかったのか。ディナーをとりに外出したときに街を見渡した。
街にはいろんな人が混じっている。肌の色、髪の色。
わたしがきたトラヴィーブ、マイケルたちもこのエアポートを使うはずだ。エルサレムよりもずっと海に近く、海沿いを車で走って端から端まで8時間だと聞いた。とても小さい国、でも人口は多い。

わたしを泊めてくれた友人が自宅でホームパーティーをする。何人ものイスラエル人と話す。街で人とすれ違う。
一年に何度もテロのあるエルサレム。この国の人々と触れあうと、みながみな、まっすぐに前を向いていた。生死の危険と常に背中あわせに生きている。それでも、みなやさしく、明るく、毎日に満足しているように見えた。

わたしはわかった気がした。
マイケルのまっすぐな目を、わたしははじめから信じていたことを。
しかし、その自由でまっすぐすぎる生き方を、受けいれる基盤がまだわたしのこころにはなかったことを。
「Go straight. Whatever you want. If you die tomorrow?」
ただまっすぐ行けばいい、自分の思うとおりに。彼の声がまた聞こえる気がした。
万が一、嘘をついていたとしても、許せるよ、マイケル。
さあ、日本に帰ろう。わたしは思った。



トラヴィーブ空港で、飛行機のボーディングを待っていた。
まだマイケルの姿を探している。どこかで、そんな自分。
飛行機が出る30分前に、ゲート41にちょうどスモーキングエリアがあったので座った。

すこし経ったら、斜め向かいの椅子に男の人が座った。たくさん空いている席があるのに?と不思議に思う。
「Can I have a question?」
声が小さくてよく聞きとれない。
なんども、What?と聞きかえす。
「ニホンジンデスカ?」
彼はいきなり日本語で話してきた。目は、まっすぐだった。
「僕、日本に行くんですよ。ビジネスしにね」
男は、長い髪をかきあげ、ニヤっと笑った。                〜完〜
posted by njehan at 08:35| 旅と新たな出会いII 〜ヨーロッパ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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